私は、半年ぶりにバイトを始めた。
経験者ということで、即採用だった。
前に働いていたところは4年ほどいて、立場もバイトの中では上の方だった。
新しいバイト先では、立場は一からのスタートだったが、やることはそう変わらないので、色々と説明なしに任されることも多くあった。
だが、やはり店舗でルールが違うことを知っていたので、最初にやり方を見せてもらいたいと頼むことがほとんどだった。
きっと私のやり方では遅いんだろうなぁ、と思うこともあったのだが、4年という経験の長さから、私のことを指摘してくる人はいなかった。店舗の方針で助言を貰うことはあったけど。
やはり経験者というと、色々指摘しづらくなることは想定済みだった。色々任されてしまうのも、目に見えていた。
本当は、経験者ということを隠して面接する予定だった。だが、履歴書を書く時に、書けることがなさすぎて、苦しくなって言ってしまった。
まぁきっと、言わなくても動きで経験者とバレてしまうから、言ってよかったのだと思うけれど。
私が経験者として採用されて、心がけることがふたつある。
それは、気になる事があっても言わないことと、自分から主導して動かないことだ。
私は前のところで立場をあげるために勉強をしたので、細かいルールやマニュアルをある程度知っている。なので、多くの人に色々と指摘したり教えたりする立場だった。
今の店舗でも、もちろん目につく手順の違いはあるのだが、それを私が指摘してみたとしよう。
歴こそは長いものの、新しく入ってきた人がどれくらいの経験者かなんて知る由もないし、その方法で今まで指摘されなかった人が、新人に指摘されたら、それは新人のこと、つまり私のことを嫌いになるに決まっている。
実は、前の店舗ではそういうことがあった。経験者ということを隠して入ってきたものの、きっと口を出さずにはいられなくなり、自分のやり方をみんなに指摘するうちに、嫌われてしまう…。私はそれを目の当たりにした。
私はマニュアルを遵守する人間だったので、その経験者の人から気に入られていたけど、周りの高校生がそんな人を気にいるわけもなく、中にはその人がいるから入りたくないという高校生がいるほどだった。
マニュアル通りの正しい店舗を無理やり作ろうとすればするほど、店舗の雰囲気は悪くなり、必要な人数も確保できなくなり、悪いことだらけになった。
だから、私はもし次のところで働くなら、以上のふたつ、気になる事があっても言わないことと、自分から主導して動かないようにしようと思ったのだ。
それを守ってアルバイトをすると、あら不思議、私は何か言われるまでほとんど動かない人間になったのだ。
だけど、それが許されてしまう。
棒立ちして、給料を稼ぐことが許されるのは、前の店舗では絶対になかった。何より、私がみんなを動かしていたし、私もやることで追われていたからだ。
今の店舗では、暇な時間帯はみんなが世間話をしているし、私が棒立ちしていても、これをしてほしいと頼んでくる上の人がいない。
とはいっても、入ってまだ1ヶ月も経っていないので、関係性の浅さによる声のかけづらさなのかもしれないけど…。
私も声をかけづらいので、何とか仕事を探して、人との会話イベントが発生しないように務めている。(圧倒的コミュ障)
だが、そんな私にも声をかけてくれる人は多い。(話しかけられたら話せるコミュ障である。)
その中で、耳を疑うような言葉をかけられた。
「〇〇さんって、絶対仕事できるよね!」
…ほほう。
経験者だからだと思うけど、そんなふうに見えてしまうのか。
私は「そんなことないですよ〜」と返したけど、「仕事できそうな見た目してるもん!」と言われてしまった。
また別の日に、別の人に私から「これ上手ですね」と褒め言葉をかけたら、「仕事できる人に褒められた〜!」と言われてしまった。
私にはプレッシャーでしかない。
なぜなら、私は仕事ができない側の人間だからだ。
前の店舗では、認められるまで色々と言われていた。
「何もやることないんだったら聞いてこないの?」「言われたこと終わったなら言って、勝手に何かしないで」「違う、違う」などなど…
元々自己肯定感も低いし、家でも認められてこなかったので、私は仕事ができない人なんだと自覚するようになった。
だから、私が仕事で唯一できること、それは人間関係に荒波を立てないことだった。
キツいことを言われても、嫌な態度を表に出さないこと、常にぺこぺこして、話しかけられたら笑顔で応えること、頼まれたことにはノーと言わないこと…、そうやって立場を築いてきた。
仕事が出来ない人には、それくらいでしかやれる事がなかったのだ。
私は今でも、自分が仕事のできる人だと思うことはない。
きっと今の店舗でも、長くやるほどボロが出て、仕事の出来ない人に降格すると思っている。
どれくらい続けるかは全然決めていないけれど、早く仕事が出来ない人と思われた方が、楽なんだよなあ…。
そんなプレッシャーを抱えながら、ここ最近はアルバイトに向かっています。